ドイツの職業訓練制度(Ausbildung)。仕組みや必要要件を解説!
- 投稿日:2024.06.27 最終更新日:2024.06.27
- ドイツ情報
今回はドイツの職業訓練制度 Ausbildung(以下「Ausbildung」で統一)についてまとめたいと思う。
通常、ドイツで専門職に就くためにはその仕事に関連する大学の学部を卒業していること、もしくは、今回取り上げるAusbildungを卒業していることが必要条件となる。
この記事は、ドイツでの就業を考えている人にもちろん、それ以外にも以下のような人にオススメできる。
- ドイツの教育・就業システムについて調べている人。
- ドイツ発祥のデュアルシステムに興味のある人。
- ドイツ在住者で転職を考えている人。
著者はドイツのベルリンで2年6ヶ月のプログラマのためのAusbildungを修了して、現在はドイツのソフトウェア開発会社に勤務している。
職業訓練制度(Ausbildung)とは?
Ausbildungは就業のために必要となる理論と実務を並行して学ぶというコンセプトの教育システム。ドイツ・オーストリアなどヨーロッパの一部の国にしかない。古くから行われていた師弟制度が起源となっている。
職業訓練生は「Azubi(Auszubildendeの略)」と呼ばれ、週に1日・2日職業校に通い授業を受け、残りの勤務日は店や会社で働き実務経験を積むこととなる。
通常ドイツでは15歳までの義務教育を終えた者は、大学進学に向けてギムナジウムの上級に進むか、Ausbildungを受けるかのいずれかを選択することとなる。
ただし、近年では大学を卒業して既に就業している者が、今までと違う分野で就労するために改めて職業訓練を受けるという事も増えている。こういった専門分野の変更はドイツでは「Umschulung」と呼ばれる。
学校での勉強と職場での実践を並行しておこなうスタイルは「デュアルシステム」と呼ばれ日本でも注目されている。
Ausbildungの種類
Ausbildungはおもに以下の3つのタイプに分類することができる。
- デュアル職業訓練 Duale Berufsausbildung
- 専門校での職業訓練 Schulische Ausbildung
- デュアル大学 Duales Studium
この3種類のAusbildungはIHK(ドイツ商工会議所)などの団体が管理しており、共通の試験を受け、それに合格すれば卒業資格がもらえるという点では同じだが、カリキュラムや受講費などの面では大きく異なる。
デュアル職業訓練 Duale Berufsausbildung
店や会社と契約を結びおこなう職業訓練。ドイツでAusbildungと言うと通常この種類を指す。訓練生は週1・2回、訓練校で業務の遂行に必要となる理論について学び、残りの日は店や会社などで働き実務を学ぶ。
職業訓練の間は職種によって350~750ユーロ程度の給料が貰える。また、訓練校に掛かる学費は店や会社が負担する決まりとなっている。
職業訓練の受け入れ先を探す場合は、インターネットの求職ポータルや店先の求人ポスター、または知り合いづてなどを利用する。履歴書とともに応募をおこない書類選考に通過したら面接やテストを受けることとなる。
専門校での職業訓練 Schulische Ausbildung
私立の専門学校に入学しておこなうAusbildung。医療・IT・デザイン・メディアなどの分野を対象にした専門校が多い。
Ausbildungをおこなう職種が実習を義務付けられている場合、自分で実習の受け入れ先企業を探すこととなる。
基本的には学費は自己負担で払うこととなるが、生活保護の受給者は労働局の認可が降りれば授業料の一部、もしくは全額を負担してもらえる。その際はBildungsgutscheinと呼ばれる書類が発行される。
Ausbildungを私立の専門学校で行う際も、通常の職業訓練と同じ卒業試験を受け、最終的に同じ修了証明書が貰える。
デュアル大学 Duales Studium
デュアル大学は新しい職業訓練のスタイル。
通常の職業訓練との一番の違いは、修了した際に職業訓練の卒業証明と同時に大学の学位が手に入る点。また、通常の大学生と較べると実務経験も豊富なので修了後の就業のチャンスは高い。
デュアル大学を採用する企業は経済・工業・ITの分野に多い。卒業までの期間は3~4年くらいが多く、給料は職種によって大きく異なるが400~1800ユーロ程度。
会社に勤務して実務経験を積みながら、大学の学位が得られるという魅力的なシステムだが、会社で業務をこなしながら学問を納めるのは負担が大きい。
デュアル大学の仕事に応募するためには、ドイツでの大学入学資格(Hochschulzugangsberechtigung)が必要となる。デュアル大学は企業が優秀な人材を囲い込むためにおこなうことが多いので、学校での成績も重要視される。
Ausbildungの対象の職種
職業訓練の対象となる職種は「Ausbildungsberuf」と呼ばれ、実に350以上もの職業がAusbildungの対象となっている。
Ausbildungsberufのリストはこちら。
対象となる職業の分野は「サービス業」「商業」「工業」など多岐に渡り、私達が普段耳にするようなメジャーな職業はたいてい職業訓練制度の対象となっている。また、Ausbildungの職業は毎年更新されており、「オンラインマーケティング」など近年誕生した職業にもプログラムが用意されている。
Ausbildungの必要要件
次に日本人がドイツで職業訓練に参加する際に満たさなければならない必要要件を確認したい。
こちらのリンクでは、一連の申し込みの流れがPDFでまとめられている。(ドイツ語)
必要となる日本での学歴
基本的に日本の高校を卒業している場合であれば、「デュアル大学」を除き、学歴がネックとなりAusbildungに応募・申し込みできないことは無いはず。
日本における学歴をドイツで証明する際は、すべての書類(卒業証明書、単位取得証明書など)を認証翻訳者に依頼してドイツ語に翻訳してもらい、さらにそれらの書類の認証(Anerkennung)を受ける必要がある。
書類の認証についてはこちらのページ(英語・ドイツ語)を参考にしてほしい。
必要なドイツ語能力
Ausbildungはヨーロッパ言語共通参照枠(CEFR)のB2レベルが前提条件となっていることが多いが、B2は最低限必要なレベルと考えておいたほうがいい。
職人系の職業訓練では、癖の強いドイツ語を話す先生や親方が多く、聞き取りの部分を充分に鍛えておかないと、習っている内容は難しくないが先生の話す内容が理解できず授業について行けなくなるというとなる可能性が高い。
年齢制限
ドイツの職業訓練には法的な年齢制限は無いが、「デュアル職業訓練」と「デュアル大学」では、会社が実質の年齢制限を設けている場合が多いので気をつけてほしい。職業によって状況は異なるが、おおむね30歳を基準にしている会社が多い。
「専門校での職業訓練」では受講者の年齢層が幅広く、18歳~40歳ぐらいまでの親子ほど年が離れた生徒が一つのクラスに在籍しいることも珍しくない。
ビザについて
Ausbildungも滞在ビザ発給の対象となる。職業訓練の種類によって発給される滞在ビザの種類は異なる。
- 「デュアル職業訓練」「デュアル大学」の場合
➡ Aufenthaltserlaubnis zum Zweck der schulischen Betriebsausbildung - 「専門校での職業訓練」の場合
➡ Aufenthaltserlaubnis zum Zweck der betrieblichen Ausund Weiterbildung
いずれの場合も受け入れ先の会社や学校を先に見つけ、契約をおこなった後にビザの申込みが可能となる。申込みの際は、滞在費用が負担可能であることの証明書類なども必要となる。
詳細については以下のサイトを参考にしてほしい。
Visum zum Absolvieren einer Berufsausbildung (ドイツ語)
* 当サイトではビザに関するお問合せは受け付けません。
採用・入学までの流れ
次に採用・入学までのおおまかな流れを説明する。Ausbildungの職種は多岐に渡るためここで説明する流れがすべての職業に当てはまるとは限らない。
「デュアル職業訓練」「デュアル大学」の場合
「デュアル職業訓練」「デュアル大学」の場合は会社と雇用契約を結ぶ事になるので、いわゆる求職とほぼ同様の流れになる。
- 希望する職種を決める
- 求職ポータルなどで興味のある案件を探す
StepStoneなど一般的な求職ポータルにもAusbildungの案件はあるが、Ausbildungなら以下の2つのポータルがオススメ。
https://jobboerse.arbeitsagentur.de
https://www.ausbildung.de - 応募する
履歴書・モチベーションレター・学歴やドイツ語能力の証明書など - 応募先からの連絡
書類審査を通った場合は、先方からメールもしくは電話で連絡があるので面接の日取りを決める。小さい会社だと応募したその日に連絡がある場合もある。 - 面接をおこなう
面接の際に数学や一般常識をテーマにした簡単なテストがある場合もある。 - 職場体験をおこなう
職種によっては採用を決定する前に職場体験(Probearbeit)をおこなうこともある。 - 合否のお知らせ
メールや電話で合否の知らせが届く。実際、採用の場合は面接の際に言われることも少なくない。 - 雇用契約の締結
契約書に双方がサインをする。契約書を交わすまでは安心しない。
「専門校での職業訓練」の場合
「専門校での職業訓練」の場合、私立の専門学校に申し込むかたちとなる。最低限の必要用件を満たしていれば、断られることは少ないだろう。
この場合、インターンをおこなう企業は後ほど自分で探すことになる。インターンを終了するまでは卒業試験を受けることができない。
- 希望する職種を決める
- インターネットなどを使って、希望する職種のAusbildungをおこなっている学校を探す。
- 多くの学校が定期的に説明会をおこなっているので参加する。
- 入学試験を受ける。
学校によっては入学試験が必要な学校もある。 - 申し込むをおこなう。
生活保護受給者についてはBildungsgutscheinを申請することができる。審査は厳しく時間も掛かるが申請が通れば、授業料の一部もしくは全額を国が負担してくれる。
Ausbildungの体験談
著者は2015~2017年の間にプログラマ(Fachinformatiker)のためのAusbildungをに受講している。この章では自分の経験をまとめておくので、興味のある人は参考にしてほしい。
Ausbildungを始めるまで
まずはAusbildungをする事になったいきさつや、それまでの紆余曲折について書いてみたいと思う。
僕がドイツに来たのは2009年で28歳の時、最初の数年間は音楽活動をしながら日本食レストランでバイトをしていた。32歳ごろから音楽に見切りをつけて、ドイツで就職する道を模索し始めた。
そこでいくつかPCを使うようなポジションに応募してみたものの、Ausbildungや大学を卒業していないうえに、ドイツ語能力も不十分だったのでまったく反応は無し。僕の場合は、日本で大学を卒業していないので、ドイツで大学に通うという選択肢は無かった。
その後、ドイツ語の勉強も兼ねながらAusbildungやドイツの雇用事情について調べ始めて「電気技工士」などのAusbildungに応募する。いくつかの会社で面接を受けて、試し入店のようなかたちで働いたこともあるものの採用には至ら無かった。
このまま歳を重ねていく訳にもいかないので、自己負担で学費を払いベルリンの職業学校でプログラマのAusbildungを始めることにした。
職業学校 Schulische Ausbildung
僕が選んだのはベルリンにある私立のBildungsakademieなどと呼ばれる専門学校。その学校はIT、商業、メディアの学校で通常3年間のAusbildungに申し込んだ。
3年間のうち前半の1年半は週4日のペースで学校に通い、後半の1年半は会社で研修をおこなうというカリキュラム。研修の期間は最長で1年間短縮すること可能で、僕の場合は半年間短縮した。
学校で習う内容はプログラミングはもちろん、ネットワークやプロジェクトマネージメント、また、BWL(Betriebswirtschaftslehreの略)と呼ばれる経営学の授業なども含まれる。
教師は科目ごとに違う人が担当していて、授業のクオリティは先生によって大きく異なるが、あまり期待しないほうがいい。
実務研修 Praktikum
僕の場合は実務研修を2つの会社で半年づつさせてもらった。一つの会社で1年間研修をしてもシステム上は問題ないのだが、いろんな会社の状況を見ておきたかったので、2つの会社で研修をすることにした。
会社は両方ともスタートアップに分類される、社員10人以下の小さな会社。もし大きな会社で研修させてもらえるチャンスがあるなら、個人的にそちらをオススメする。
研修とはいっても求められる実務レベルは結構高いことが多いので、学校での勉強と並行してUdemyなどで積極的に自習しておいたほうがいい。
研修をさせてもらう会社の経営がうまくいっている場合は、そのままAusbildung修了後に社員として雇ってもらえる可能性が高い。
研修中の給料は交渉しだいなのだが、月に450ユーロ以上稼ぐと扶養家族から外れるので該当する人はそれも考えて交渉する。
卒業プロジェクトと試験 Prüfungen und Abschlussarbeiten
Ausbildungを修了するためには卒業試験に合格しなければならない。60%ほど点数を獲得できれば合格となるのでそこまで難しくはないが、ドイツ語でテストを受けると問題を理解すること自体が大変なので、充分に準備をしておいたほいがいい。
Ausbildungプログラムの最後の3ヶ月くらいは卒業プロジェクトと試験対策に費やすこととなる。卒業プロジェクトは自分でアプリを開発したり既存のソフトの機能拡張が課題となる。課題は研修先の会社と相談して決める。プロジェクトの内容はプロジェクトの終了後にドキュメントにまとめる。
卒業試験はプロジェクト・筆記試験・口頭試験からなる。口頭試験では自分の遂行したプロジェクトに関するプレゼンテーションをおこない、採点者の質問に答えるかたちとなる。口頭試験の会場や採点者は参加者によって異なり、僕の場合はSiemensの本社で口頭試験を受けた。
まとめ | ドイツの職業訓練制度Ausbildung
さて、今回はドイツのAusbildungについてまとめてきた。ドイツ独自の教育システムであるAusbildungに興味を持っている日本人の人も少なくないはず。この記事が情報収集の助けになることを願っている!